アイデアのスープのレシピ

ナショナルデパートが作られる現場のレシピ

技術の継承とレシピの創造

そうか、今年もモバックショウか。

二年に一度モバックショウという製パン製菓関連の産業展が開かれる。文字通り製パン製菓業界の様々な業者が自社製品をアピールし、既存のリテールや新規開業する個人がトレンドを見聞するまたとない機会となっている。情報を収集する貴重な場だと思う。二年前の開催時に幕張の会場へ行き、allaboutの清水さんと知り合ったり、モバックショウで知った機械もいくつか導入したりもした。ミキシングから焼成までほとんど自動でパンが焼きあがる大規模ラインとか、どら焼きマシンとか、見ていてなかなか面白かったおぼえがある。

中でも盛況だったのは、有名ブーランジェによるセミナーだった。レシピ本などを出している有名な方々が、キッチンスタジオで流行のパンを実際に焼き上げる。それを食い入るように見つめる中小のリテールたち。2007年はちょうどハード系のパンが流行の兆しを見せていた頃だったので、ほとんどのレパートリーがハード系だったかな。最先端のレシピに、いわゆる「パン屋のおじさん」たちが触れるという、なかなかシュールな光景だった。

製パン製菓業界に携わる人たち、とりわけ製造に関する業務に就く人は、なにかしらの技術を誰かから学び、それをもとに日々の業務を進めていくのが一般的だ。ある一定期間の修行期間を必ず経る必要がある。モバックショウでは製パン製菓の世界大会の日本代表の選考会も開催される。高水準の技術を持ったブーランジェたちが、さらに上の技術、経験をもった国内の職人たちに審査され、そしてさらに世界基準の高名な職人や審査員たちによって、各国代表の技術の習得度が審査される仕組みになっている。ヨーロッパで生まれた近代のパン業界は、技術の継承モデルが確立している業界だといえる。

同じものを誰が一番上手に焼くか。これは職人なら誰もが目指すことなのだと思う。誰が一番上手に焼くかはコンクールで分かる。昔から継承されたレシピをブラッシュアップしていきながら、適当なアレンジを加えて上手に焼く。みんなが同じ方向を見て進んでいくのだ。同じレシピで。

僕はろくに修行もしていない新参者だが問題点を感じている。製パン業界のほとんどが大手のメジャーによって占められている状況で、大量の人員や頭脳で日々新しいレシピが生み出され生産され消費される。その中でごく少数のリテールたちが技術を競い腕を磨く。でも、技術を磨いているのも継承されたレシピの範囲内で、しかもそのレシピも機械化によってかなりのレベルまで到達している。職人技の領域まで機械化が押し寄せているのだ。いまのリテール業界は機械でも作れるものをわざわざ人の手で作っているという、おかしな感じになっている。手作りと焼きたてがリテールの最大で唯一の武器だからだ。

モバックショウでは製パン機器と職人技の両方を同時に見ることができる。おそらく機械生産と手作りの両者が共存していると考えているのだと思う。でも、それは少し違うのではないか、手で作れるものは機械でも作れる。だから人の手でしか作れないものを人の頭で考えなければいけないんじゃないかな。誰が上手に作ることができるのかということも、職人の中では重要かもしれないけど、少しはリスクをとって新しいことへ挑戦してみてもいいんじゃないかな。そろそろ「ヨーロッパ伝統の~」というレシピも枯渇すると思う。そのときどうするんだろう。

「パン職人みんながバゲットを焼ける必要はない」

この言葉は吉祥寺のダンディゾン、青山のディヌラルテをプロデュースした淺野正己氏。この話しは清水さんから聞いた。僕もそう思う。誰かの真似をしてレシピを増やすのが常識のこの業界。自分の感性でしか創り出せないものを考えても罰はあたらないのではないかと思っちゃったりする。僕は美味しいパンを焼くというよりも新しいパンのフォーマットを作っているのだと思っている。経営的には最初激しく苦しかったが今でもテーマにブレはない。と、ここまで書いたが、あんまり生意気なことを言うと怒られるので、全部ウソということにしておこう。