アイデアのスープのレシピ

ナショナルデパートが作られる現場のレシピ

新しいナショナルデパートが始まる

製造に新しい人材が入ることになった。

聞けば3年間くらい、先方もウチも相思相愛だったらしいのだが、なかなか言い出せなかった。ついにお互いにタイミングが合ったということで採用という運びとなった。

彼は小さな二人の子供を一人で育てている。朝は保育園に送らなければいけないし、帰れば食事の支度もしなければいけない。熱が出ればすぐに家に帰る必要もあるだろうし、土日はきちんと休まなければいけないし。連休は子供を連れてディズニーランドにも行きたいだろう。パン屋の製造としては致命的に条件が合わない人材だ。なのになぜ僕は彼と一緒に働きたかったのか。

製造と一言でいうが、ただパンを作れば良いわけじゃない。今欲しい人材は、ずーっとそばにいて僕を支えてくれる相棒とも言うべき存在だ。子供が小さいうちはしょうがない。そこは家族中心に仕事をしなければいけない。ただ子供はいつまでも小さいわけじゃない。男として仕事を通して社会と向き合う時期が必ず来る。そのときに一緒に歩んで行ける相棒として彼を選んだ。

それに、僕は製パン業界の雇用にたいして疑問を感じていた。独立のための技術習得を餌に過酷な条件で若者たちを働かせているパン屋は多い。そんな環境で何年も経てばパンしか焼けない人間が育ってしまう。子供とディズニーランドに行くことも、パン屋の修行のうちだと僕は思う。いや、パン屋なんて狭義なものを人生に置き換えることすら無意味だ。パン屋は人の生き方の全てではない。自分の生き方の表現の一つとして、パン屋とか様々な職業がある。

僕は信頼に足る人材を得ることができた。ワイフやゆきちゃんやみずえちゃんやあかぎさんと同じく、今、僕の仕事を支えてくれる人たちとめぐり合えたのは、僕が諦めなかったからかもしれない。そう思えば、ナショナルデパートというものの意味が僕の人生の中で大きな幹に成長しているのだなあと実感するのだ。

新しいナショナルデパートが始まる。

僕が追い求めていた理想形が徐々に姿を現してきた。デザインの仕事をしながら大学の経営学部に通ったのも、すべてはデザインと経営を統合するという目標のため。そのためには工場を持たなければいけない必要があった。将来的に外注になるとしてもプロトタイプを制作する施設と人材は絶対に必要だ。今後最大の課題である流通の段階に入る前に、ここにきて製造が強化されるのが心強い。準備は整いつつある。さあ、これから新しく始まるんだ。