アイデアのスープのレシピ

ナショナルデパートが作られる現場のレシピ

通販を始めたいと言う人が増えているらしいので一応意見を書いときます。

というわけで、取材ということだったのでわざわざ東京まで行ってきたわけです。滞在時間18時間ほどだったのではないでしょうか。パン特集ということなのですが、お店の撮影があるわけでなし、商品の紹介があるわけでなし、という実に珍しい取材です。なのですけど、わざわざ交通費を使って行ったのは、なんだか楽しそうな予感がしたからで、まあ、どうせ世の中のしがらみがある限りはウチは雑誌のパン特集でマトモに取り上げてはもらえないわけですからね。

「これからの時代のパンを考えるとき、実店舗のみならず、webでも成功されている店をご紹介し、そのノウハウ、成功の秘訣をお伺いしたい」ということだったのですが、例のごとくそんな話はまったく無しという展開になり、ブログで書いたら即炎上系の業界話に花が咲いたわけです。なのでもしかしたら掲載されないのではないかという予感もして、でも、まあ楽しかったからいいか的なノリな訳です。

実はというと同業者さんから通販に関するアドバイスをメールで求められることが多々ありまして、本当いうとこの取材でまともにノウハウとかを語れば良かったのですが、あんまり甘やかしてもいけないと思ったわけですね。製パン製業界っていうのは設備とオペレーションで稼いできた歴史がありましてね、ノウハウとかは講習会とか勉強会とか機械屋が持ってくるレシピのパクリとかコンサルが持ち込んだ資料をそのまま作ったりするクセがあるわけです。自分で考えてゼロからものを作るという習慣が無いわけです。なのですぐに誰かがやっていることの真似をしてしまいます。

で、昨今の不景気もあってか、実店舗の売上不振とかの影響で通販とかに興味を持ち始める人も出てくるのは、まあ世相なのかなと。なんだけど、こっちがだめだからあっち、みたいな簡単なものではなくてね、楽天でランキング上位にいってるとこだって、結構キツい感じのところもあるわけです。なんだけどテレビや雑誌に出ようと思ったらお金を積まないと出られない昨今、個人規模のパン屋さんとかは何をやっても埋もれちゃうのが実情です。楽天で売上100万円を超える店がどれくらいあるか、実際そろそろ現実を見た方がいいのではないでしょうか。

で、通販に関する僕の意見としては、通販やる前にもっと他にやることあるだろ。ということです。どこでも売ってるパンを焼いているのに、通販に出したらとたんに売れるわけなど無いわけです。素材にこだわったとか言ったところで、そんなの当たり前なわけですし。奇をてらって動物の形をした変な食べ物を作ったところで、ゴミにしかなりません。一部の趣味の悪い人たちが買ってくれるでしょうけど、楽天ランキング上げるために自社買いしてまでやることでは無い気がします。

今はどこも大変だと思います。でも、自分のポジションを明確にしておいた方が良いと思うのです。いままで近所の人たちを相手に美味しい焼き立てパンを提供していたのが、webという荒野でゼロから商売を始めるのは容易いことではありません。焼き立てが美味しいという幻想の上に成り立っていたリテール業界が、輸送をかますという商品劣化とどう戦っていくか。マズいだの腐ってるだの散々言われながらも、そこを乗り越えるだけの開発力と向上心はあるのか。そこが試されるわけです。

焼き立てなら美味しいだろう、とか、理由はよく分からないけど国産小麦なら安心をウリにできるだろうとか、天然酵母なら価格を上げても売れるだろうとか、そういった甘えの上に成り立っていたリテールさんたちが、何も考えないまま今までやって来たわけです。で、店舗の客が減ったら今度は通販でもしようかと。そんな甘いものではありません。今まで楽をしてきたのですからこれからはちゃんと苦しみましょう。

化学で博士号を持っているような人間がうじゃうじゃいる研究開発部門を持っている企業も毎日製品改良や開発をしています。あなたは前日に仕込んだ生地を冷凍してドゥコンで解凍発酵するのが当たり前だと思ってるのでしょうが、あなたの焼いているパンはスーパーで売られている袋入りのパンよりも品質は低いのです。いつのまにデニッシュが300円も400円もするようになったのは業界特有の横並び意識からでしょうが、あなた、それは自分の首を絞めているようなものです。

あなたの対峙しているライバルは同商圏内の競合ではなく、山崎や木村屋や神戸屋やドンクなのです。それらはヴィドフランスやメゾンカイザーなどのブランドを使ってリテールチェーンを強大化させて、あなたのいる商圏にも進出してきます。あなたはどう戦いますか?そのリテールチェーンのどれもが焼き立てを売りにしていて、冷凍生地をドゥコンで発酵させています。同じことをやって大資本に勝てると本当に思っているのでしょうか。僕らは大企業には勝てません。それは誰でも知っていることです。だからこそ今考えるべきなのです。

外部から資本が注入されているブランジェリーやパティスリーもけっこう経営が大変になってきているようです、親会社がスポンサードしているメディアにアホほど露出させても、期待以上の売上が出ない場合も出てきています。大乃国(スイーツ)親方が絶賛しているのもお金をもらっているからで、メディアに出ているものを盲信する層にはウケても、目で見て舌で味わう層にはウケません。食べログなどの評価サイトも人為的なバズマーケティングで埋められていけば、30-40代の「自分で決められない」層には影響を出せても熟年層や若い人には通じません。

今から通販に進出しようと思うなら、大量の金を使って人為的に評価を買わなければいけないという現実に直面します。でも、それでも売上が上がるという保証は無いのです。あなたがつぎ込んだそのお金の何倍もの資金を持っている企業のヒモ付きのお店には勝てません。さあ、どうでしょうか?それでもやりますか?もっとやるべきことがあるでしょう。

あなたはグランドピアノがある10LDKの家を建てるためにパン屋やケーキ屋を始めたわけではないはずです。目の前のお客さんが喜んでくれたり楽しんでくれたりするのを見るのが、何よりも楽しかったはずです。前日仕込みで冷凍するためにグルテン強化した不自然な国産小麦粉を今すぐ捨てて、目の前のお客さんの笑顔のためにしっかり苦労しましょう。何年も苦労するかも知れません。でも、僕たち個人規模のパン屋やケーキ屋が大資本の攻勢に耐えるには、当たり前のことを当たり前にやり遂げて、まっすぐお客さんの顔を見なければいけないのです。

いつも通りに「ここまで書いたのは全部ウソ」と言いたいところですが、全部ホント。