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アイデアのスープのレシピ

ナショナルデパートが作られる現場のレシピ

三大ブランドのシュトーレンフレーバー菓子を味わう。

アイデアのスープ
スターバックス、無印良品、ナショナルデパート、シュトーレン比較 僕のリスペクトするブランドを同じ商品で比較していこうと言う企画です。リテイルベーカリーの中では年末が近くなると一大シュトーレンブームが起るわけでございますが、僕がパン屋を始めた9年前なんかはシュトーレン?何それ食えんの?状態だったわけで、細々とドイツパンなんかを焼いているパン屋さんが年に一度クリスマスを迎えるシーズンにそれこそ細々と焼いていたわけですが、最近ではカレーパンが人気の街のパン屋さんでもシュトーレンを焼いているような状況です。今回はシュトーレン派生商品を食べてみようという企画なのですが、どうして「派生商品」なのかというと、流行ったものを横並びで売り始めるリテイルベーカリーを尻目に、すでにシュトーレンをフレーバーとして扱う動きもベーカリー以外の世界では見られるわけです。その新しい動きを細かく見ていこうではないかというのが今回の企画意図です。 で、まあなんでシュトーレンがここまで知られる存在になったのかというと、この10年間のネット通販の普及が大きな役割を担ったのではないかと僕は理解しています。ネットというのは目新しいものや海外の文化をいち早く取り入れるにはかなり適当なメディアだったので、mixiなどのSNSが普及して参りますと近似の趣味思考を持つ者同士が気軽に集まることのできる場というのがネットの中に増えてきたんですね。ここに高級パンブーム(今はすっかり忘れ去られたけど)が絡み合い「シュトーレン=高級なパン」というよく分からない価値観が生まれ、その価値観とクリスマスシーズンという財布のヒモが緩む要素とクリスマスケーキに対して比較的安価であることがブームを後押しし、1個100~200円台の商品を主に販売しているリテイルベーカリーにはそれが渡りに船で、なんだかよく分からないけどドイツでクリスマスに食べるパンだと1個1,000円以上でも売れるってよ!ってな感じでリテイルベーカリーの間に瞬く間に広がりました。 欧米文化を何でも日本国内で普及させないと気が済まないあるいは、一部に欧米文化が日本国内に普及しないと病気になったり死んでしまう人たちがいらっしゃってですね、必死こいてシュトーレン!シュトーレン!と騒ぎ始めるわけです。そしてここでも自称「本場の味認定機関」が現れて、実際に本場に足を運んだ自分たちが味わった本物の味以外は認めない、私たちは正しいドイツ文化を日本に普及させるために命をかけています的な感じで自治を始めます。それをやってしまうからリテイルベーカリーと大手との差がますます開いていくわけですけど、彼らは自分たちの知識をひけらかすことができれば店の一軒や二軒潰れても知らないことですし、リテイルベーカリーの市場動向なんて気にしていないのでお構い無しなのです。 前置きが長くなりましたが、ここまで書いたのはリテイルベーカリーを取り巻いた非常に狭い世界の話しで、ここから書いていくのはこの先に広がっていくシュトーレンだけではなくパンや菓子の広大な可能性とも言うべきものだと思います。海外の文化を持ち込んでしたり顔で紹介するのではなく、そこから新しい可能性を引き出していくことこそイノベーションと言えるのではないでしょうか。 スターバックス スターバックス、無印良品、ナショナルデパート、シュトーレン比較 スターバックス:商品名:シュトーレンスコーン 230円/1個 まず最初にスターバックスはクリスマス商品として展開している「シュトーレンスコーン」です。ここは主に店内飲食を想定してあるのでパッケージは通常のフード用テイクアウト包装になっています。サンドイッチや小さいケーキを購入してもこの袋に入れてくれますね。新しいロゴもすっかり馴染んできたのではないでしょうか、ハンドペイント風のグラフィックとステンシルっぽくにじみを付けた文字の入り方もオサレ感満載です。 スターバックス、無印良品、ナショナルデパート、シュトーレン比較 シュトーレン界のポストモダン 肝心のシュトーレンスコーン本体について、価格は1個230円、重量は約100gです。表面に着いているのは粉糖ですね。スコーン特有の表面の凸凹に付着した粉糖が良い感じにまばらに取れて美味しい表面質感をつくりだしています。スコーンという「整えられていない美味しさの表現」をここでも踏襲している気がします。この居住まいを見てこれがシュトーレンだと思う人はいないでしょう。表面の粉糖の質感がかろうじてシュトーレンを連想させる程度なのはシュトーレン界のポストモダンとも言える逸品の風格が感じ取れますね。 スターバックス、無印良品、ナショナルデパート、シュトーレン比較 シュトーレンとスコーンの強引でない結婚 ナイフで切った感じはスコーンそのもの、粉糖がスコーン生地の表面部分の水分を吸着するので少し乾燥したような硬さになってはいますが、粉糖の層が水分を吸うことによって固化しスコーン本体内部からの水分の蒸散を防いでくれています。そういう意味ではスコーンの欠点をシュトーレンの手法によって補うというイギリスとドイツの食のEU包囲網の完成とも言えるのではないでしょうか。使用されている素材を見てみようと思います。スタバのフード商品は品質表示というものが無かったので、食べた感じとサイトの情報と一般的なスコーンの配合を考慮して考えてみました。作られているのは大幅な変更が無ければOEM先のタカキベーカリー(アンデルセン)だと思います。 予想される使用素材 小麦粉、砂糖、ショートニング、バター、アーモンドパウダー、レーズン、アップル、オレンジピール、レモンピール、アーモンド、カシューナッツ、クルミ、粉糖、シナモン、ココア、脱脂粉乳、ラム酒、ブランデー、膨張剤、塩。 参照元http://store.starbucks.co.jp/food/bakery/4524785186859/ 食べてみた感想 食感はそのままスコーンで、スパイスの主張はほとんど無く、ラム酒とブランデーでコンポートしたというドライフルーツがほどよいアクセントになっています。アーモンドパウダー、シナモン、ココアを生地に練り込んでいるようですが、これがほんのりとしていて主張せず良い意味でスコーンに対するリスペクトを感じさせます。スコーンの絶対領域であるバターの風味を邪魔してしまうよりは、シュトーレン部分の主張をあくまで洋酒漬けフルーツと表面の粉糖に止めておくことで、シュトーレンを知らない人にも優しい味わいを感じてもらえるようにしているのだと思います。細かく刻まれたアーモンド、カシューナッツ、クルミが食感のリズムを作ってくれていて、たまに口の中ではじけるオレンジピール、レモンピールが、ああシュトーレンを食べているのだなあと感じさせてくれます。 スタバでシュトーレンを感じるには十分な秀作 これを持ち帰って家で楽しむというよりは、スタバの店内でクランベリーホワイトモカや、ジンジャーブレッドラテや、トフィーナッツラテなどといっしょに楽しんでもらうと、このシュトーレンスコーンの本当の美味しさや革新的なフレーバー感覚を味わっていただけるのではと思います。主役はあくまでドリンクであり、シュトーレンをスコーン形態でソフィスティケートしたものとしてリプロダクトしたのはさすがの一言に尽きるのではないでしょうか。 無印良品 スターバックス、無印良品、ナショナルデパート、シュトーレン比較 無印良品:商品名:ひとくちシュトーレン 252円/3個入り 無印良品のクリスマス用菓子ラインナップのパッケージが一新されてかなり可愛くなっていますね。その中でもブールドネージュ(クリスマス)と並んでクリスマスのプチお菓子として売られていたのがこのひとくちシュトーレンです。ゼリービーンズなどはクリスマス用のシンプルなパッケージにパッキングされているのですが、このシュトーレンやパネトーネなど、海外でこのシーズンに食べられる菓子類に関しては説明書きが添えられたパッケージになっています。ここにも無印良品の思慮深さが垣間見れますね。 スターバックス、無印良品、ナショナルデパート、シュトーレン比較 シュトーレン界のダウンサイジングここに始まる ひとくちシュトーレン、価格は3個入りで252円、重量は約20g/1個です。スターバックスではスコーンとシュトーレンを融合させるというハイブリッド形式だったのですが、無印良品ではシュトーレンをそのまま小さくしてしまおうというダウンサイジング戦略が採用されています。これはSONYがウォークマンの展開で戦略の柱としたもので、小さくすることで何かが見えてくるだろうという未来型の発想です。ウォークマンはカセットテープレコーダーを小さい携帯型にすることで持ち歩けてどこでも音楽が楽しめるというベネフィットを訴求したわけですが、シュトーレンを小さくすることで何が私たちに利益をもたらすのか、というよりも古いものに対する抵抗、伝統からの解放を謳う製パン新自由主義とも言うべきシュトーレン・レジスタンスがここに発生したと見るのが正解のようです。 スターバックス、無印良品、ナショナルデパート、シュトーレン比較 小さくすることで見えてくる大きいことの意味 ナイフを入れた瞬間にホロッと崩れそうになるくらいに繊細な生地に仕上がっています。原料を見るとつなぎとして卵を使用していないようです。アンザッツ法によってリッチな生地を膨張剤を使用しないで膨らませている感じがします。大規模な製造ラインでもそのような手間をかけた製法を採用することがあるのでしょうか。すごいですね。味わいはそのままシュトーレンです。サイズが小さいのでマジパンを包むことができないのでその分油脂を多めに乳化させているのでしょう。十分にリッチさを感じさせてくれます。小さくてもシュトーレンとして成立していますが、大きくすることでマジパンを包んだり表面積を少なくしたりすることで賞味期限を長くしてその分熟成させる時間的余裕も得られるのかと再確認できました。小さくすることで手軽さや利便性はかなり向上しますが、熟成という観点からするとフルサイズに含まれた意味と言うものが再発見できます。シュトーレンをそのまま持ち込んでしまうと高価になりますが、小さくすると買い求めやすくなる。海外の文化を翻訳するというのはそのまま持ち込むのではなくて、こうやってその国に根付く文化とミックスしてこそ新しいものを生み出すきっかけになるのでしょうね。 使用素材 小麦粉、バター、サルタナレーズン(レーズン、食用植物油脂)、牛乳、砂糖、オレンジピール砂糖漬、グラニュー糖、粉糖、ショートニング、アーモンド加工品、アーモンド、くるみ、レーズン、乾燥いちじく、ラム酒、パン酵母、洋酒、食塩、粉末シナモン、乳化剤、香料。 食べてみた感想 サイズを小さくすることで硬くなりやすいという欠点を、あえてブールドネージュっぽいサクサク感を演出したかのようにスライドさせているところがさすがだなと思いました。フレーバーはシナモンを強く押し出すことで広い世代に馴染みのある味で親しみを持たせていて、刻んだアーモンドやくるみの香ばしい味と食感が小さいシュトーレンに無限の味の奥行きを与えているような気がします。おそらくマジパンを配合してある生地は独特のしっとり感をもっていて、サクサクでしっとりしていて賞味期限を長く設定できるという、無印良品がOEM製造で長い年月をかけて培った小袋菓子のノウハウがここに詰まっているのでしょう。 発酵菓子としての矜持 シュトーレンが長い年月を経て熟成された菓子の製法のように、シュトーレンもまた焼き上げられてから数日の時間を経て美味しくなっていくというメタファーを内包しています。この商品の同時展開としてパネトーネなどの発酵菓子を並べたのはひとつの冒険だと思います。ダウンサイジングすることでパッケージを可愛く演出できたりするのは無印良品でしかできないことですから、これからも意欲的に商品開発してくださることでしょう。シュトーレン未経験者がこれを始めて食べたなら、きっとシュトーレンに好感を持ってくれるに違いありません。OEM先の発酵菓子に対しての矜持を感じずにはいられませんでした。素材感が生かされたシンプルなシュトーレンという印象を受けました。ありがとう無印良品。 ナショナルデパート スターバックス、無印良品、ナショナルデパート、シュトーレン比較 ナショナルデパート:商品名:プチシュトーレン 525円/4個入り 今年発表された「VERONICA'S NATURAL THINGS」のキャンディーケーキフレーバーのひとつとして販売されています。デザインのテーマは自然というキーワードを「自然素材」などの脅迫的天然生活に縛られず、あくまで「自然であること」をテーマにした新しい栄養食品ブランドとしています。白い粉糖と相まって非常に清潔感のある印象を受けるデザインとなりました。これとは別に絵本付きのセットとしても販売されています。 スターバックス、無印良品、ナショナルデパート、シュトーレン比較 シュトーレン界に現れたラスト・サムライ プチシュトーレン、価格は4個入りで525円、重量は約20g/1個です。シュトーレン派生商品としてスターバックス、無印良品の商品を紹介してきましたが、この二つの商品には共通点があります。それはスパイスを効かせていないということです。日本のマーケットは菓子にスパイスを混ぜるということに慣れていないために、全国広範囲で老若男女のお客様に買っていただくには個性というものをある程度排除していかなければいけません。そのために食感やフレーバーは踏襲してもスパイスの配合だけはNGだという結論になります。これは仕方がありません。日本人に馴染みの無いフレーバーを日本の和菓子に伝わる伝統手法によって日本人に馴染みのある菓子に仕立ててしまおうというプロジェクトがキャンディーケーキというひとつの答えです。サムライ・シュトーレンと言っていいのではないでしょうか。 スターバックス、無印良品、ナショナルデパート、シュトーレン比較 口の中にじゅわっと広がる果実感 トレイにに乗せられたキャンディーケーキが4個、粉糖が馴染むとこれがうっすらと黄色くなってきます。良く馴染ませた方が美味しいとも言われますが、フレッシュなうちに楽しむのも良いのではないでしょうか。ナイフを入れると粉糖がほどよく水分を吸ったケーキ生地が心地よくサクッと切れます。生地に包まれた洋酒漬けのドライフルーツは一般的なものでこれは他の二店と変わらないと思いますが、ドライフルーツと合わせたマジパンと白あんの混合フィリングにこそ和菓子の伝統が息づいています。饅頭などの原理をシュトーレンに応用しダウンサイジングするという今までに無いシュトーレンフレーバーの菓子です。噛んだ瞬間にジュワッと口の中に広がる果実感は和菓子の「潤」なイメージを喚起させます。 使用素材 小麦粉、白あん、洋酒漬けドライフルーツ(オレンジ、レーズン、アップル、レモン)、砂糖、アーモンドパウダー、バター、卵、加糖練乳、水飴、マルトース、トレハロース、香辛料(カルダモン、ナツメグ、シナモン、オールスパイス)、膨張剤、米油、粉糖、香料。 食べてみた感想 シュトーレンの重要な個性であるスパイスをふんだんに使いながらも、和菓子のような優しい味わいにまとめあげたのは我ながらさすがだと思います。白あんの甘さとマジパンのコクのある甘味が融合し、水分を多く含んだフィリングの中に洋酒漬けのドライフルーツが香りと食感という味の表情が見え、それをまるごとスパイス(カルダモン、ナツメグ、シナモン、オールスパイス)の生地がひとつの方向に導いていくという壮大なストーリーが感じられます。粉糖が舌に残る間にスパイスの生地の香りが後を追いかけてきて、スパイスの香りが感じられるかどうかのタイミングで白あんとマジパン(アーモンドパウダーと砂糖を練ったもの)のフィリングの瑞々しさがジュワッと広がるという味の時間差攻撃です。 新しい価値を生み出すための時間 ナショナルデパートはいままで様々な新しい試みをしてきました。それはパンの範囲から飛び出すことも多く、今回もこうやってパン屋さんが焼くべきシュトーレンを止めてまで、新しい菓子を作ることに何年も情熱を注ぎ込んでいるわけです。これからはこうした新しいものを生み出すための時間をもたないといけないと僕は考えています。個人事業所レベルのリテイルベーカリーのシェアはどんどん減ってきています。経営者はみんな異なるのに同じ時期に同じような内外装のお店が増え、同じようなパンを焼き、同じようなファッションでパン特集などの雑誌に登場します。リテイルベーカリーこそが個性を発揮していかなければいけないはずなのに、なぜか同じようなことばかりをやってしまうのです。僕は10年間この界隈を見てきましたが、本当に病的なほどに同じことをやりたがるんだなあと不思議に思っていました。新しい価値を生み出す必要が無いなら、人が創造的である必要も無いわけです。 シュトーレンを通して見る業界 本当はリテイルベーカリーなどの小さな事業所が大手がやれないことをやって時代を切り開くべきなのに、いつのまにか大手の物真似をして「自分も大手と同じことができた」と喜んでる始末。大手の方が新しいことに意欲的に取り組んでいるっていう事実を伝えておかなければいけないと思ったのです。巷のパン屋が高単価が取れるからという理由でシュトーレンって言い始めた頃には、無印良品は一口サイズのミニシュトーレンを発売し、スターバックスはシュトーレン風味のスコーンを発売する。ここに越えられない高い壁があると思うのです。リテイルベーカリーのシェアはどんどん減っています。それは時流ではなく大手に比べて開発する努力が欠けているからだと思うのです。本に載ったレシピを真似し、有名なシェフが持ち込んだ海外のレシピを習うというような、そういう他力本願なことではリテイルベーカリーは焼き立て以外に何の能もない存在に成り果てるのでしょう。いや今のシェアの失い方はもうそういう認識の中に巻き込まれているのかもしれません。