アイデアのスープのレシピ

ナショナルデパートが作られる現場のレシピ

デザイン食品の時代は足音も無く静かに始まる。

「デザイン食品」そんな言葉なんて存在していないのですが、すでにそういう動きは始まっている気がしています。ここ数年を見ていると少しずつ形になって現れ始めたデザイナーの「食品」への参加について。それは過去にもあったのですがここ数年のデザインと食との関わりが新しいステージに進んだような気がして楽しみに眺めています。デザインの副業で飲食業をやるというのではなく、和洋菓子やパンなどのカテゴリーで新しい動きが目立ってきています。デザイナーの食品へのアプローチは単に仕事として商品のパッケージや広告に関わるだけでなく、その経営や商品の企画、販路の拡大にまで様々な関わり方が始まっています。 デザイン食品について僕なりに考えた3つのタイプ。 Aタイプ 「デザイナーが経営という視点から和菓子メーカーをプロデュース」 デザイン事務所が経営、食品の製造はOEM、販売店舗は自社運営。 例:SIMPLICITYの運営するHIGASHIYA 和菓子という普遍的な商材を現代的なデザインでプロデュースしている。OEMで製造可能な範囲の一般的な商材にパッケージデザインで付加価値を与え、高単価商品として展開することで他に無い独特の世界観を実現しています。 HIGASHIYAのECサイト。老舗の和菓子屋さんでは手が出ない領域にまで踏み込んだパッケージデザインの設計が手に取った人の心を豊かにしてくれます。こうして見ると商品の企画から販売の現場までデザインが関与しない場は無いと言って良いほどですね。 Bタイプ 「デザイナーが個性ある食のクリエーターと関係する新たな試み」 デザインには関わるが経営には参加しない、販路の斡旋など積極的に協力をする。 例:村上周氏のAMDRTAKIBI BAKERY BtoBで築いたコネクションで百貨店催事やケータリングなどにつなげることができる。ブランド立ち上げ初年度から伊勢丹でシュトーレンを販売するという通常では考えられないロケットスタートが切れるのも、広いコネクションと販路を持つBtoBのデザイナーとの関係ならでわです。 固定の店舗を持たないスタイルで活動を行うTAKIBI BAKERYのロゴは旅するロバでしょうか。中世の銅版画のようなタッチで可愛らしくありながらどことなくミステリアスな雰囲気も漂わせています。AMDR社はアイシングクッキーのクリエーターであるcookieboyさんの本のADも手がけていて、食とアートの間の空気をつなぐのはお手の物なのかもしれません。可愛いです。 Cタイプ 「スモールビジネスから始めるデザイナーと食品のちょうどいい関係」 デザイン事務所が経営、食品は自社で製造、販売店舗は自社運営。 例:テトラトーンが運営するhenteco 森の洋菓子店 これは今日facebookで知ったのですが、デコクッキーという流行を押さえながらも、やはりデザイナーが企画したというだけあって仕上がりは食品関係者の作るそれと比べるとレベルが格段に上です。とにかく可愛くて失神しそうです。 見れば納得のキャワイさです。これを見たゆきちゃんは失神寸前でした。商品や店舗のプランニングから取り組めるのでありがちな後付けコンセプトでわざとらしくならず、ごく自然にお店の世界観に入り込んでいく事ができます。商品的にはすでにあるカテゴリーですが、デザイナーさんの感性が細かな所まで行き届かせることが可能な「自社店舗、自社製造」のスモールビジネスはこれから先の大きな可能性を秘めているのではないかと思うのです。 Aタイプは一時期流行した「デザイン家電」の食品版とも言えるもので、食品の製造は外部の工場に外注して自社では商品の企画のみをおこないます。デザイン家電との大きな違いは食品であるが故に家電量販店のような数をさばいてくれる販路が持てないと言う点です。AタイプとCタイプは食品自体の形もデザインしているのが特徴です。デザイナーが食品に関わるということはパッケージから一歩内部に踏み込んだブツのカタチを自分で作り上げるということにつながっていくのですね。 Bタイプは従来ある食品とデザイナーとの関係に近いですが、デザイナー自らが自分のイベントなどで積極的に商品をプッシュするなどして次の仕事につなげていける点が大きな違いだと思っています。デザイナーというのはBtoBなので、BtoCでスモールスタートする製パン製菓業からするとその持っているコネクションは魅力的です。スタートで販路を紹介できるというのは後々に相互にとって利のある関係が築けるのではないでしょうか。 AタイプはOEMなので初期投資(製造ロットにもよるが)が大きくなります。なので数のさばける慶事のギフトをターゲットにしています。商品自体は和菓子という一般的な需要から外れないカテゴリーに抑え、味はオーソドックスなもので固定してその商品自体のフォルムやパッケージデザインのみを個性的に演出しています。オシャレだけどおばあちゃんからお孫さんまで楽しめる味にすることで、ギフト需要にマッチさせるための定石をきちんと守っているわけです。 そして、おそらくこれから増えてくるのではないかと思うのがCタイプです。一時のカフェブームくらいにまで盛り上がる可能性は秘めています。デザインという仕事はそれほど設備投資を必要としない業種なので、時代にマッチして仕事が集まり始めると独立から早い段階でかなりの額の利益が出ます。これがBtoBの特徴で今まではこの利益の投資先がカフェ経営だったりしたのですが、これからはもしかしたらパン屋さんやケーキ屋さんになるのではないかと勝手に想像しています。 カフェは場の提供なのですが食品だとそのもののデザインから自分で作る事ができるのでやりがいもかなりあると思います。食品は商品の形、パッケージデザイン、店舗のデザイン、ショップカードなどのノベルティーのデザインなど総合的にデザインが多く関わる業種です。実際にクライアントワークで食品の仕事をすると自分の店を自分でプロデュースしたら面白い事ができるだろうなあと想像する人も多くいるのではないでしょうか。ノベルティーの発注先も知っていますから安く作る事が可能で、しかもデザインフィーが発生しないのですからこれはものすごいアドバンテージがあります。 僕も10数年前にはデザインに関係した仕事をしていたのですが、今の食品の業界に入って驚いたのは恐ろしいほどみんな同じ事をするということです。驚くほど同じものを作りたがります。もしここにデザイナーが参入してきてみんなが作っているようなお菓子やパンをものすごいカワイイ箱や個性的な袋に入れて販売したらどうなるでしょうか。みんな同じものを作っているのですから、デザインを拘るだけでかなり付加価値が出ます。従来通りに「そんな修行もしていない奴らのつくったものが売れるわけない!」と言い切れますか? 長く続いた職人主導の製パン製菓の世界でデザイナー主導の流れが少しずつ始まろうとしています。異業種経営者の進出は定着してきましたね。職人が経営者になるのではなく、デザイナーというプラン立案のプロが食品のプロデュースからパッケージのデザイン、今までに無い販路の創出まで一貫して作り上げる経営の流れも見えてきました。これはワクワクしますね。 しかしデザイン食品(僕が勝手に名付けた名称)にも弱点があります。それは今ある食品にデザインを付加要素としてプラスすることはできても、新しい食品を作り出す事は一朝一夕にはできないという事です。過去にもデザインに特化した食品というものは存在していましたし、それなりにヒットした商品もありました。しかし流行のサイクルが結構早いのもまた事実です。店舗やパッケージデザインなどの外的要素が優れていても、最終的には「味」という他の業種には無い価値観で選ばれるのもこの業界の特徴です。 デザイン食品の時代は足音も無く静かに始まっている気がします。僕の気のせいかも分かりませんが。でも、デザインと食品が新しい形態で融合していくスタイルは今後も多くの人が模索していく事でしょう。その中で今までに無い新しい価値が生まれ、それが未来の価値を形作る礎になればそれもまた楽しみでもあります。