アイデアのスープのレシピ

ナショナルデパートが作られる現場のレシピ

さらば愛しのパン

最近朝方まで作業している。ももたんの新しいラインナップの準備や営業資料の作成なんかがたまっていて、けっこう体にこたえる。こんなに仕事をしたのは20代以来かもしれないと思う。

僕自身がパンを止めたいというのではなくて、店を取り巻く状況が僕にパンを止めさせる方向に何らかの意思を持って動いているようにしか思えない。ももたんは好評だ。オフシーズンでも売上が下がらなかった。一方パンについてはどうか、ここ最近ずっと今の店を始めて以来の最低売上を叩き出している。以前にも書いているけど、ワイフともスタッフとも何度も話しをした。パンをどうするか。このまま続けるのか、数を絞るのか、いっそのこと止めるか。

先日銀座にオープンしたVIRONの食パン専門店CENTREでトーストを食べた。10年来の友人である老舗ロースターの営業に誘われて行ってきたのだ。美味しいし楽しいとオッサン二人で無邪気にはしゃいだ。パンの勉強のためでもなく、お店の視察でもなく、純粋に食パンを食べるという行為を楽しんだ。両手いっぱいに食パンを満載した紙袋を下げて帰路についた。楽しかった。たぶんもう僕の中でパンは作るものから食べて楽しむものへと存在が変わってきているのだろうと思った。帰りしなに友人に社長さんを紹介してもらって名刺を頂いた。社長はエルメスのネクタイをしめていた。

ももたんを始めて、本当にいろんな人と出会えた。まだ2ヶ月そこらなのに、本当にいろんな人からももたんの評判を聞く。これで良かったのだと思った。ももたんは本当によくできた商品だと思う。大量生産に向いた企画、目を引くデザイン、嫌われないギリギリを狙った味、食品プロダクトとしてのギリギリをついた、ニッチではないメインストリームど真ん中を狙える商品だと思う。

パンを焼く回数、数量、出荷回数を半分以下に減らそうと思う。卸についてはこれから取引先に順次説明をしていこうと思う。催事も7月アタマの日本橋を最後にしようと考えている。僕の中でパンが終わったのだと思う。大きなパンも、砂糖や油脂を使わずにリッチにする考え方も、10年の結論として、僕の創造してきたパンは営業的に全て失敗だということだ。僕は徐々に僕の中でのパンの幕引きの準備を始めている。

僕の持つ能力や蓄積がパンに向いていなかったということだろう。この10年間は、新しい商品のフォーマットの開発やデザインの工夫などは、パンの要素としてはさほど重要ではないということを証明したに過ぎない。僕の持つ強みが市場の中で全て否定された結果になった。ただ、このままやめるのかどうかという問題については、創業事業のコアを失うことがアイデンティティに対してどのように作用するのかを見極めながらゆっくりと考えていきたい。

しばらくはももたんに全力で向き合っていきたいと考えている。ももたんは食品製造の理論的な構造や、創造的な傾向、デザイン、営業展開、ブランディングの推し進め方、全てにおいて僕の持つ強みと合致している。みんなが僕をももたんを褒めてくれる。僕は最近上機嫌だ。仕事も楽しい。まるで岡山に帰る前の自信に満ちた自分に戻れた気がする。飯も美味いし酒も美味い。やっと本来やるべき仕事を始められたようで感慨深いものがある。

パンと言う世界での僕の役割は終わりました。この世界に深く爪痕を残せはしなかったけど、パン屋をやったことで多くの友人や尊敬できる諸先輩方と知り合えたことは僕の財産です。少しおセンチになりまたが、これが嘘偽らざる今の僕の気持ち。さらば愛しのパン。