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アイデアのスープのレシピ

ナショナルデパートが作られる現場のレシピ

2013年大反省会

ヒデシマ
去年の今頃、僕は窮地に立たされていた。パンが売れず、駅に出店したのも失敗し、もう、死んでしまおうかなんて考えていた。

今年1月、激しい腹痛で病院に行くと、憩室炎と診断されて即入院。3週間ほどベッドの上で過ごした。退院後、念のためと2月に受けた大腸内視鏡検査で腫瘍が見つかり、さまざまな検査を受けた。結果は悪性、3月に進行性の大腸ガンの告知を受けた。

告知を受けた翌々日、かねてから企画していた岡山のお土産の提案をしに商工会議所に出向き、担当部長に半笑で門前払いされ、怒りをぶつけるように一枚のイラストを描いた。桃の被り物をした可愛らしいキャラクターだ。僕は工場に降りてスタッフとワイフにキャラクターを見せて、その後もう一枚の紙を掲げた。そこには「ももたん」と書いてあった。

4月、僕は手術を受けるために虎ノ門病院に入院し、手術の前々日かな、「ももたん」が岡山駅で発売された。すぐに売り切れた。

僕は7時間に及ぶ大腸ガン摘出手術を受けた。直腸をほとんど摘出し、術後の病理検査でリンパ節転移が見つかった。ステージ3の大腸ガンという最終的な結果になった。手術後、麻酔が覚めた時にワイフが僕に言った言葉は「水飴はどこに注文したらええん?!」だった。ああ、ももたん、売れてるんだなあとその時思った。

退院後、半年間の抗がん剤治療を受けた。排便障害は今も残っている。

手術から半年ちょっと、「ももたん」は岡山で7店舗、都内3店舗の合計10店舗で取り扱われるまでに広がった。グランパーニュはDEAN&DELUCAの7店舗。ナショナルデパート製品は全国の17店舗で見つけることができる。それもすべてが一流の売場で取り扱われている。

去年の今頃、僕は死のうと思っていた。今年の春、僕は死ぬかもしれないと思った。そして今年の大晦日、僕はワイフと徹夜で「ももたん」を焼いている。ももたんの周りには人だかりが出来ているらしい。

人生なんて分からないものだ。良い方に転ぶか、悪い方に転ぶか、それは誰にもわからない。誰かのおかげかも知れないし、何かのせいなのかも知れない。僕のことを悪く言う人もいれば、僕のことを好きだと言ってくれる人もいる。

パンで伝えきれなかったメッセージが女王製菓でも絵本でも伝えきれなかった。それを今は「ももたん」で伝えられるようになった。それは何かなんて聞くのは野暮というもの。僕はデザイナーでもパン屋でも饅頭屋でもない仕事をしている。カタチの無い「心」を商品にする仕事だ。

2013年も、もう少して終わる。

今年お世話になった人も、来年これからお世話になる人も、みなさん良いお年をお迎え下さい。

2013年12月31日
ナナショナルデパート
秀島 康右