アイデアのスープのレシピ

ナショナルデパートが作られる現場のレシピ

季節によって調整するのではなく、全温度帯で活発に働く酵母の元種をつくる

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昨日のInstagramから。

酵母は菌よりも培地が要。
とよく言っていたのを実践。
またイチから耕し直す。
高温で培養したものと、低温で培養したもの、それぞれの環境で適性をもった株だけが生き残るという単純な作業だけど、これだけで均一化が可能になる。
培地の構成は小麦粉と水だけなので、延々と同じ培地で培養し続ける。
グランパーニュはデカすぎてホイロが無い。だから冬でも室温で発酵し、夏でもダレない発酵の速度が得られる。というデザイナー独学の製パン理論。

という感じで仕事してます。先輩方のパンはそれはもう完成度が素晴らしく、味や美しさではとうてい勝てないので、僕は僕のスタイルで自分のカッコいいと思うパンを焼くことにしています。

 

酵母によって味は変わらない

ということを書くと、今だと「へ〜そういうものなのか」となるかもしれませんが、その昔、そうですね、10年前とかそこから数年間は手作りでパンを焼く人の間で「天然酵母」でパンを焼くということがたいへんブームになりまして、そこで、レーズンから採取した酵母とか、伊予柑から採取した酵母とか、菌が付着した菌床の種類によって味が変わるかのようなことが語られ始め、「伊予柑から起こした酵母で焼いたパンは柑橘系の香りがする!」などという、ファンタージー文学がそこらかしこのブログで見られました。

じゃあ、天然酵母ってなんだよ、ということなんですが、僕の中では、制菌されていない環境で発酵を促進した酵母菌を含む培地の総称で、主にパンの膨張や風味付けに使われるもの。という解釈です。過去のブログにも書いてますので、どうぞ。

blog.hideshima.net

前のブログにも残ってました。

 

天然酵母といえばホシノですね。

ホシノだと自分で菌をコントロールして元種を作って商売をやっている身からすると、ホシノで焼いたパンの香りは、どこからどうみても一般的なイーストで焼いたパンの香りそのままです。そりゃそうです、パンの膨張に適した菌を培養して小麦に混ぜて膨らませて焼いたら、同じものになるに決まってます。

じゃあ、ホシノの特徴は菌そのものというよりも、菌を培養している、菌が含まれている培地の素材が分解したものが高温で焼成されて醸しだされた香りだったりするわけです。ホシノの原材料を見てみると、

原 材 料 名 小麦粉・米・酵母・麹
化学合成物質は、一切使用しておりません。

この化学合成物質は、一切使用しておりません。という文言が、天然酵母じゃない市販のイーストには化学合成物質が含まれているんだわ、健康に悪いわ、私は死ぬの?ねえ、私は化学物質に染まったイーストで焼かれたパンで身を焦がして悶え死ぬの?という感じで、世の方々を混乱させたわけです。イーストは悪だという間違った知識を広め、食材の印象をミスリードした戦犯ですね。悪魔の白い粉です。

 

じゃあなんでお前は酵母の元種を使ってるんだよ、ということになりますが、これは過去に何度も書いたことですが、食感と風味と焼色をコントロールし、求める結果を出すために必要な仕込み時間を短縮し、250℃で約1時間という窯に負けない生地をつくるためです。

下の写真はグランパーニュの焼き上がり表面の様子です。クープがほどほどに開き、高温でもクラストは炭化せず、開いて露出した内部もほどよくメイラード反応で飴色になり、独特の甘い香りが漂います。

 

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この焼き上がり、小麦粉と塩と水だけというグランパーニュのクラストを甘く、そして食感をサクッと仕上げるには、通常フルスクラッチで仕込むと6時間とかかかってしまいます。それだと12時開店で焼きたてを出すためには仕込み開始が朝の6時からになってしまいます。それだと主婦パートさんが主力のセントラルキッチンでは人材が得られなくなってしまうわけです。

酵母の元種を使うということは、元種を作る工程内で、全工程で得ようとする効果の内、水和と発酵と分解によって得られる生成物をある程度完成させておいて、その後に主原料と混ぜあわせることで、時間短縮と効果増を狙う必要性があるということになります。

こうすることで、主婦パートさんはお子さんを学校に送り出してから仕事に参加してもじゅうぶんにパンを焼くことができ、また、将来的にパン屋さんをオープンさせるという目的を持たない方にも気軽に製パンの仕事を担っていただけるわけです。

 

冒頭の画像について補足しておくと、左側が50〜65℃という高温の環境下で12時間発酵させた元種、右が水和させたルヴァンリキッド(ウチでは酵母ミルクと呼ぶ)を低温というか0〜2℃で数日間から数週間寝かせたものです。この二種類の元種をミックスするわけですが、これは、菌が死滅する60℃以上でも活動する菌を残すためと、活動が停止する5℃以下の低温環境下でも働く菌を見つけるためにこうやって間引いたりして選別しているわけです。

菌は目に見えないので、培養する培地の状態と温度や湿度などの環境のコントロールによって少しずつ様子を見ていくことしかできません。これは菌を扱う場合はどこもそうやっているはずです。酵母の元種は、季節によって調整するのではなく、全温度帯で活発に働く酵母の元種をつくるということを心がけています。これだと、不足に自体不測の事態にも対応しやすいからです。

酵母種も市販のイーストも、化学物質で「エイヤ!」と菌を突然変異させているわけではないわけです。

 

というわけで仕事に戻ります。