パンの世界の新たな胎動が聞こえる。
焼きたてのライ麦70%のブロートに、冷やしたセル・ドゥ・メールを塗って試食に出す。それを食べて「美味しい」という初めてのお客さん。12年前では考えられない光景。
12年前、店をオープンしたばかりの頃、ドイツパンの試食を口に入れたお客さんが「これは腐っている」と目の前で吐き出された経験を思い出す。12年というのは日本人の味覚や嗜好すら変えてしまう年月だったんだと、その時気づいた。
ずっとお店の再開を待ってくれていたお客さんがたくさん来てくださった。新人スタッフが試食をすすめると、「試食なんていらない、ここのパンは確実だ」と言ってくれる。ラスクの焼き上がりを20分以上待ち続けてくれるお客さん。ほぼ昔の常連さんで埋まる店内。
1日目、 何かしようといろいろ準備していたんだけど、肉は焼き過ぎてスタッフの賄いになるわ、パンの焼きは詰まるわでバタバタし、夕方まで途切れること無くお客さんに来ていただいて、ただただパンを売る以外は何もできずに1日が終わった。
勝手に閉めた店を再び開けるという、どーしようもない男のために、たくさんの方々、昔からの常連さん、ももたんから支えてくださっているお客さん、ネットをみて初めて来たという方々、通りがかりに寄ってくださった方から温かいお言葉をいただき。ほんとうにありがとうございます。感謝しています。
思い入れが詰まった場所
DIYのカウンターは工事が終わらず、ベニアがぶら下がっていたりしたけど、今日一日を無事に過ごさせていただきました。
お祝いで頂いた、たくさんのお花やお酒など、なぜかまるでお盆の祭壇のような賑やかさに彩られたカウンター。ここにはただ茶色いパンたちが並んでいるだけですが、それでも12年間の中で、一番思い入れがつめ込まれた場所になりそうです。
自分の身体に癌が見つかって、あと半年で3年が過ぎる。「ももたん」を始めて、生き急いでいると言われるようになったけど、あの時、5年後生存率が半分という丁半博打に延々と張り続ける人生を選んだんだから、この先もずっとそういう生き方をしていくんだと思う。
とりあえずはパン焼きのリハビリのための岡山のセントラルキッチンをオープンさせた。次は都内に工場を出す。そして、次は、、、生きている間にどこまで遠くの人に自分の創りだしたものを試せるか、僕より良い物を作る人はたくさんいる、僕より稼ぐ人はたくさんいる、でも、唯一無二のものを作り世界に送り出せるのは、僕しかいない。
生きている間に、もっとたくさんのものを作りたい。もっとたくさんの人に届けたい。だから、こうやってまた、泥臭い仕事を自分でやろうと思えたのかもしれないですね。
みなさん、今後ともよろしくお願いいたします。
明日から当面はグランパーニュの焼き立てが12:00〜お店に並ぶ予定です。
ナショナルデパート セントラルキッチン
岡山県岡山市北区天神町9−2
電話 086-226-6224
営業時間 12:00〜17:00(パンの焼き上がり12:00)
店休日 毎週月曜日、年末年始