というわけで、オリンピックエンブレム以降、問題となっていた「デザインの合意形成プロセス」というのを、弊社製品の「ももたん」を題材に少し経験させてもらいました。
といいつつ、何のことだかさっぱり分からない人もいると思うので、簡単に説明すると、ウチが作ってるお菓子のパッケージのデザインとかキャラクターのイラストをリニューアルするから、ちょっと意見聞かせて!ということをさせてもらいました。上の画像の向かって左がリニューアル案、右が現行のデザイン。意見を募集したときの記事はこちら。
そして、リニューアル否定派のかたのご意見が若干多いと感じたので、その理由をもっと引き出すために新旧デザインを入れ替えて見たときの印象も聞いてみました。それがこちらの記事。
結果としては肯定派、否定派のご意見はほぼ同数なのではないかという結果となりました。とはいえ、この場合は数が問題なのではなくて、ご意見の内容を詳しく見ていくことにこそ意味があると思っていて、すべてのご意見をきちんと見させていただき、それに対するレスポンスもちゃんと書かせていただきました。
ネットでしかも匿名からの意見もあるのにそんなことしても意味無いじゃん。と言われる向きもあろうかと思いますが、匿名も実名も実はそんなに差異がなくて、リニューアル肯定派と否定派それぞれのご意見の根底にある動機はまったく同じだということがわかってきました。
デザインの形成合意プロセスを経験して
今回のデザインリニューアルは、先般問題となったオリンピックエンブレム問題のようにゼロから新しいものを作るというのではなく、すでに発売から2年半という時間を経過して、ほどほどに認知されている、しかもキャラクターが描かれたパッケージだということが前提となりますが、そのデザインに愛着が湧くかどうかという点においては、同じプロセスになるのではないかと。
結果を見ていくと、新デザインと旧デザインのどちらが良いかというよりも、新デザインが好きか嫌いか、という視点になっていきました。これについては、肯定の場合は「かわいい〜」という感じの初見のイメージを含む感想、否定の場合はリニューアルを否定する理由などを事細かに書かれている印象を受けました。
匿名か実名かの違いによる意見の偏りは無く、匿名で否定派の場合にちょっと激しい言葉を使って否定する方がいるぐらいで、とくに煽るような内容も見受けられず、みなさんキチンと考えてくださってご意見を書いてくださったんだなあと思います。
■肯定派のご意見を簡単にまとめると
- 目立つから良い
- かわいい!
- 目鼻がハッキリしていて良い
- 売り場にあるとこっちを選ぶ
■否定派のご意見としては
- 安っぽくなった
- 不遜な笑顔が気に入らない
- ゆるキャラみたいだ
- 個性が無くなった
これらのご意見を見ていく中で、あることに気づきました。それは、
新デザインに対して
ポジティブかネガティブか
ではなく、
新旧デザインの
どちらにポジティブか。
ということだ、と気付きました。
理由としては明確にあって、新デザインに対してポジティブな方(肯定派)の共通点は、いままで「ももたん」のことを知らなかった初見の方が多い、旧デザインに対してポジティブな方(否定派)は、現行の「ももたん」を知っているかたに多い、ということです。
新デザインにたいして否定派の方は、旧デザインに対して愛着があるのです。新デザインに対して肯定派の方は、デザインやキャラクターだけを見て判断してくれています。
これに気づいた瞬間、新旧デザインをどう扱うか、すぐに答えが出ました。新旧デザインの両方の利点を活かすための方策はわりと簡単なことだと気づきました。
じゃあ、ヒデシマじっさいにどうするんだ?
ということですが、それは、
デザインは変えない
という答えです。
とはいえ、新デザインに対してのポジティブな意見である、「目鼻を大きくする」というご意見を取り入れて、マイナーチェンジするという方法もあります。マイナーチェンジは増刷するたびに実行してきましたし、いつもやっていることです。しかし、今日発注の印刷データにマイナーチェンジはしませんでした。
なぜなら、
ここでいったん「ももたん」の歴史を止めてしまおうと思ったからです。
上の画像のように、「ももたん」は度重なる整形手術によって現在の姿に生まれ変わってきました。とくにイラストを描いた経験もないオッサンがキャラクターを描くということで最初は不慣れだったものが、少しずつ勘所が分かってきて、増刷のたびにシコシコと描き変えてきた歴史があります。
今回のリニューアルで変えようと思っていたのは、「ももたん」のキャッチポイントともなっている「鼻」と「題字」です。なぜ、「ももたん」を「ももたん」として成立させているパーソナリティである「鼻」と「題字」を変えようと思ったかというと、岡山土産としてのパーソナリティが奪われたいま、「ももたん」を生み出した僕が自らの手で岡山土産としての命を絶とうとしたのです。
しかし、旧デザインに対する愛着のある方々のご意見を聞いてみて、思ったのは、
このままの姿で
命をまっとうさせてやろう
という、生みの親である僕の親心でした。
来年から「ももたん」は岡山土産としてのパーソナリティを失います。これを持って、岡山駅で売られるおみやげ菓子は、「きびだんご」か、他県で製造された「OEM製品」だけになります。これは完全なる僕の敗北です。いくら日本中に販路を増やしても、海外で販売しても、地元の岡山駅から締め出されたら、もうこれは敗北でしかありません。
僕も来年から東京に引っ越します。そのまえに次の展開を見据えてデザインを変えようとしたのですが、みなさまのご意見を見て考えが変わりました。いったんここで「ももたん」の歴史を止めてあげたほうが良いのかな、そう思いました。
新デザインのポジティブな要素は、おそらく未来の展開においてはすごく重要になってくると思います。今後、さまざまな場所で「ももたん」を展開するための強力な武器となるでしょう。旧デザインは岡山における僕の敗北の証としていつまでも残していきたいと思っています。
一度ここで進化を止める、という選択肢は、今回の合意形成プロセスを経ないと得られなかった答えだと思います。そして、ここを起点にさらなる展開へと進んでいくのだと思います。みなさん、ご意見ありがとうございました!
岡山駅からは追い出されますが、岡山空港では継続して販売しますので、今後とも「ももたん」をご愛顧いただけますよう、よろしくお願いいたします!